令和5年度の油画専攻「買上賞(首席)」として、油画専攻4年 AHMED MANNAN の《めっちゃデカい家族写真(自分含めた)と、こうならないであろう自分の絵と、こうなるかもしれない自分の絵》を選出しました。イスラームと日本、2つの文化を生きる自身とその家族を描いた本作は、当事者でもあるムスリム土葬墓地の受け入れ問題から着想を得て描かれました。三連祭壇画を想起させる画面構成は、左側キャンバスに土で「土葬」された自画像を、他方には灰で「火葬」された姿を描くことで、やがてくる「死=埋葬」をめぐる自己のアイデンティティの揺らぎを表現しています。
本作は自身の家族を物語るセルフドキュメンタリーでありながら、急速な人口減少や多文化化で変容の過程にある「日本社会と日本人(のこれから)」という大きな問いを、絵画芸術の長い時の射程に内包したとも言えるでしょう。「買上賞」の受賞により本作は東京藝術大学美術館に永く収蔵されます。明治29年の東京美術学校西洋画科設立以降、「油絵」という西洋フォーマットの土着化を進めてきた藝大油画の歴史において、 AHMED MANNAN の土と灰と油絵具の絵画は、西洋/日本という近代に始まった二項対立のどちらでもない、「第三の」あるいは「いくつもの」絵画の主体が生み出されていく未来を予見させるものです。